庇護雑記

嘘たち

エクストリームロマンス

 

 

曽根崎心中で、心中こそが究極の愛だと訴えて現代でも語り継がれているあたり真理であったりするのだろうなと思うし、自分もそう考えるところがある。

 

噛み合わなくて金属疲労を起こして崩れつつあった人生の歯車が一気に修復されて勢いよく回り始めて、ここからだ、と思った矢先に果たして私はこれで正しいのだろうか、と自ら歯車に金属を差し込んで一旦止めてしまった

正論というものは、いつだって正しいと言えるのだろうか。どんな状況下に置かれているかを加味したとしても、?

 

 

ふたりでマンションの屋上までのぼって貯水タンクまでグミチョコレートパイン、白いはしごに手をかけて手すりを乗り越えて、グミチョコレートパインしよう。次はグーだよ、知ってるよ、あいこでしょあいこでしょ。このままずっとあいこだよ。ずっと一緒だよ。せーの、あいこでしょ

私よりも先にコンクリートに引き寄せられるあなたの額が弾け飛ぶ1秒前に時を止められるような、そんな気がしてたんだ。そんな気がしてたから、どんなに破滅的でも絶望的でも、私はなんとかなるって信じることが出来た。魔法使いとか、超能力者とか、それくらい簡単になれると思ってた。その気になれば私は全てを操ることが出来る、私とあなただけの世界だって簡単に

 

あの大地震が起きた時、私は首都圏だから大きな被害は受けなかったけれどもかなりの揺れを経験したわけで、家のあらゆるものたちがぶつかる音とまるで生きているかのように激しく動くマンションは全く私の言うことを最後まで聞いてくれなくて、止まれ、止まれって心底本気で念じたのにどうしようもできなかったことが私を魔法使いでも超能力者でもないただの人間であることを思い知らせた。怖かった。想像以上に人間が無力であることが。

 

一緒にグミチョコしてあいこで一緒に地面を蹴飛ばしても、私は時を止められない。さいきょうのふたりだとしても、結局はただの人間だから重力に引っ張られて弾けて終わりだ。セカイ系ならいくらでも時を止めることだって巻き戻すことだって出来るけど、残念ながら私たちは人間であって

 

あなたのため、が自己満足であることなんていくらでもあると思う。ただそれを自覚していないから、あるいはゆがんだ、すれ違った認識をしているから、だから人間は、上手くいかないのだろうな

人間じゃなければ、さいきょうだったのに

 

 

溶けた電球

 

 

暗がりを売りにする洒落たレストランで、大量に吊り下がっている電球のひとつひとつを見ながら話を少しずつ聞き流していた

右から左にただ抜けていくわけではない。

右から左に香りながら抜けていくのです

この二つの違いがわからない人が多すぎるから、わたしは微妙にほほえみながら聞き流しているわけです

声の香りが分かりますか、私にはわかるんです

だからこそ嫌なことも辛いこともたくさんあった、私にしかわからないあれやこれやが。

 

熱にやられて電球がぐにゃりと曲がって、歪んだ光がたれてくるのを横目に食べるエビとオリーブオイルの料理は格別だったように記憶している

目の先に漂うその香りは、嫌いではありませんでした

 

僕は君のもの

君は僕のもの じゃない

僕は君のもの 君のもの、としての僕

君だけの僕がここにいる

僕だけの君はどこにもいない

君は誰のもの

君は誰のものでもない

僕は誰のもの

僕は

 

 

 

 

今はなにもしたくない

好きなことも出来なくなってる

好きなものがどうでもよくなってしまった

特にこれといった理由はないけど

時間が止まってくれないから、私をこんな目に遭わせる

昔から手に入れなければ気が済まなかった

手に入れられないものなんてなかった

手に入らないもの、なんてものはなかったのに

未来だけがいつまでもくたばってくれない

私の言うことを聞かずにひらりと身をかわして

私の手の中で蹲ってくれないから

だから私はあの溶けたドロドロの光を無理やり掴んで、高温で掌を焼きながら微笑んでる

 

 

 

球体について

 

 

ずっと隠していたことをバラしてしまった

本物の私を見たかはわからないけど、まあたぶん確認しただろう、と思う。すべての人が受け入れてくれるなんて思ってない。怖がって逃げていく人がいたとしても引き止めない。引き止める資格なんてないから。

でもやっぱり知られたくなかった。今知っている人は何人だっけ。6?わかんないや、気付いてても何も言わないでいてくれる人もいるし。そもそも隠しきれるわけがないんですけれども

 

 

一定の条件が当てはまると感情のコントロールが効かなくなる。プツンと切れたら私ではなくなる。そんな自分にはうんざりだけどそれでもどうしようもないからロラゼパムでなんとか抑えようとしてまた浸っていってしまう。一生このままかもしれない。別にそれでいいと思う。ずっとずっとこんな小さな弾をかじり続けてそれで私が正常な人間としての演技をしていけるのなら私はそれで構わない。

いつか耐性がついて、追いつかなくなって、人格を手放してしまった時がきたらわたしは自ら命を絶つだろう。本意じゃないだろうけど、結果としてはそうなるんだろう。その時受ける罰は正常な人間が命を投げ出した代償と同じなのだろうか、少しくらい、許してもらえないだろうか。

 

 

彼岸

 

 

頭の中でついにちぎれてしまった

必死に手繰り寄せていた糸が

 

 

まだ幼く清廉だったあの頃は、互いの瞳の色素を観察するだけで幸せだった。年上先輩には気をつけろ、変なウォレットチェーンなんてつけないでね、そっちこそ金髪とかにするなよ、煙草なんかもだめなんだからね、なんて約束して別の電車に乗ったらもう同じ駅になんて止まらなくて、激しく色素の抜けた髪の君の写真がTwitterにあがっていたよね。分かってたの、永遠なんてないってこと。全てのものには終わりがあるってこと、全部だよ。人が生まれて死ぬように、感情だって生まれたなら向かうのは死だよ。それがどんな類の感情だとしても。

 

大切だったはずのものが、少しずつ壊れてきて

私は見て見ぬふりをし続けてたのかもしれない。気付いてたのかもしれない心の底では。いつからか盾を構えていたし、口を開くことも少なくなった。心の中にしまいこむものが増えてきた。どうしてだろう。ずっと平気だったはずなのに。私の世界は私だけで満たせていたはずなのに。どうして、こんな風になってしまったんだろう

 

誰のせい?

 

時と環境のせいだろう。たぶん。私は意外と呆れるほどに真面目すぎて、もしかしたら期待をしすぎていたのかもしれない。夢を見すぎていたのかもしれない。期待をしなければ絶望もしない、だなんて、頭では十分理解していたはずなのに、胸に刻んでいたはずなのに、期待を捨てきれないところがあったんだ。盲点だった。ここだけは、期待しても許されると思ってた。期待と絶望は常に背中合わせだというのに。

 

失っても構わないと思った。ほんの少し、20秒くらい。失ってもいいと思うほど、私は確かに失望したのだ。なぜだか裏切られた気分だった。人間に期待する方が負けなのに、いつだって期待した側が裏切られるのに。分かってたのにどうして避けられなかったんだ。

 

理由なんて、簡単だ

幕引きは自分で出来る。どうするかは私が決める。

さようなら、ほど簡単な行為はない

 

 

 

 

 

朝の心臓が溶けていくような動悸がきついから眠るのがいやだ。いま化粧水の青い瓶が落ちて透明のキャップが割れた。

美しすぎて壊したくなるって発言したのはとても人間味を感じて好印象だった。きっとたぶん、大切に丸くして磨いて守り続けてきたものだとしても一瞬の衝動で跡形もなく壊してしまう日が来るかもしれないよ。それは誰しもがそうなんだよ。その引き金は愛の濁りだって前にも言ったじゃない

光の屈折がイコールにならなくなったとき私は私の手で大切なものを壊すでしょう。取り返しのつかないくらいにぐちゃぐちゃにしてしまうのではないかと思う。そして罪悪感で命が絶えるギリギリまで苦しみ続けるのだと思う。でもその醜いどす黒い塊こそが愛の権化だったりするんじゃないかともわたしは考えてたり、するわけで、痛みも苦しみも伴うものがきっと愛だから。美しさなんてぜんぶ嘘で塗り固めた虚像でしかないから。

 

 

 

童話

 

 

一人の少女がいました。

少女の頭の中には、幼い頃に目をじっと見つめながらナイフを握って近付いてきた乳母の顔がしっかりと焼きついていました。その瞳と銀色に光るナイフの冷たさは一瞬にして少女の五感に刻み込まれ、いつでも少女はその鋭利な痛みを鮮明に思い出すことが出来るのでした。

少女がかき集めてきた欠片をすべて放ったとき、それは少女の身代わりとなってバラバラに砕け散りました。突風が吹き抜け、鉄の塊が砕いた破片は少女の胸の奥深くへと突き刺さり、透明な血を流しながら少女は歩き始めました。

一人の王子がいました。王子は退屈な城を抜け出し、ひとりで静かな森を歩いていると、ジャラジャラという金属音が聞こえてきました。それは少女の足に絡まった鎖の音でした。少女の足に絡まったたくさんの鎖を見た王子はその少女を不憫に思い、腰に差していた剣を振りあげてその鎖の一つを断ち切ってみせました。少女は喜び、お礼に王子の望みを叶えることを約束しました。

王子の望みは、この森の奥に咲くという花を摘んでくることでした。少女はその花を摘むため手首から血を流し、毒を飲み干しては長い時間暗い森の中を歩き続けるようになりました。それはすべて王子の望んだことでした。王子のためなら、少女はなんだって耐えられる気がしました。

花を摘んできた少女に王子は銀の首飾りを与えました。それは触れただけで怪我をしてしまうほどに磨きあげられた銀の首飾りでした。少女は王子からのプレゼントを喜び、首につけようとした瞬間、あの感覚が少女を襲いました。切り裂くような冷たさと、目がくらむほどの眩しい銀色の光を直視できず、少女は気を失いました。すると王子は憤慨し、倒れた少女の足から脱げた靴を蹴り飛ばすと踵を返して城へ帰ってしまいました。

雨が降り、少女は一人ぼっちで花を摘みながら雨雲が流れていくのをひたすら待ち続けていました。何のために、誰のために花を摘んでいるのか少女は思い出すことができません。しかし少女にはそうすることしかできないのでした。厚く切れ間のない真っ黒な雲が、少女に被さろうとしていました。

それでも少女はひとりで花を摘み続けるのでした。