庇護雑記

フィクションだから。

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パスタを茹で終わってお湯を捨てる時、パスタ用のトングで麺を押さえて鍋を傾けていたのに1本だけするりとトングにも引っかからずに落ちてシンクの底に流れていった。なんだろ、この感じ。自分と重ね合わせてメランコリックな気分になる
 
ずっと飲みたいと思っていた期間限定のドリンクは気が付いたら全く別のものに変わっていた。きっと私はこんな風に、少し余所見をしている間にたくさんの大切なものを取り逃がしていく。欲しいものに手を伸ばすことすらできずに、指を掠めることも出来ずに。世界が逆行しているんじゃないかと思うくらいだ。いや、単に私が逆行してるのかもしれない。
 
過去に縛られてても意味がないんだよと言われて何度も何度も鎖を断ち切ろうとした。でもチェーンソーくらいの重機じゃなければ完全に断ち切ることなんてできない。チェーンソーなんて私が扱える代物じゃない。
大好き、ななちゃんみたいな人は他にいないよ、生きててくれてありがとう、いなくならないで、出会えてよかった、そんなかけがえのない言葉をかけてもらえても私はすぐにしゃがみ込んでしまう。いくらスワロフスキーみたいな言葉を手で掬い集めたって闇の中では少しも光ってくれない。反射させるためには光が必要なんだよ。その光はどこへ行けば見つかるんだろう
生まれ変わろうと何度も思った。自分のことを憎み続けるのも辛かった。纏わりつく全ての靄を振り払うために全力で走った。砂浜を走っているような感覚だった。すぐに心臓が音を上げる。呼吸が荒くなって足がもつれて倒れる。息が苦しくて起き上がれない。だけど必要なのは酸素じゃない。目を背け続けた酷な現実が首を絞めていく
 
保育園児の頃、時計がよめて計算が出来て文字の読み書きが出来たのはあおぐみで私だけだった。逆上がりも難なく出来た。リレーだって意外と速かった。自転車に乗るのも簡単に出来た。ピアノの上達も早かった。子供の頃は何も躓かなかった。自分は大丈夫だと思ってた。普通に幸せになれると思ってた。ガラスが割れるのを見るまでは。それから面白いくらいに歯車が狂っていった。残酷なもので1つ狂えば全てが狂っていくのをただ見ていることしかできなかった。止められなかった。これが運命なんだと思った。
高校時代はご褒美という名の麻痺期間だ。ただ麻痺していただけだ。笑気麻酔で3年間過ごして、切れた途端に私もぶっつり切れた。全ては麻酔で眠らされていた時に見ていた夢だった。現実はこれだ。この地獄が私の現実だ。
 
皆みたいにうまくできない
何一つ上手に渡り歩けない
いつからうまく笑えなくなったんだっけ
誰かに本当のことを言いたい
心の内全部さらけ出せたらどんなに楽か
でも結局本心なんて 誰にも