庇護雑記

フィクションだから。

pwubesm



私はどこまでも真っ青で、綺麗に透き通った水色が好きなだけなんだ
自分の使命というかやるべきことというかはたまた存在意義というか、そんなものは漠然としてでも私には理解できてしまっているわけで
だから普通で普通に普通の、幸せは折り込まれていない残念で平凡な人生の取っ手に指をかけている今このままでいいのかなって、引っかかってる指を折ってでも自分を貫き通すべきなんじゃないかって
だけど私には圧倒的に欠落しているものがあるのだ。残酷すぎるほど俯瞰できてしまうことへの代償がここにはある


彼は死んだ

横文字の香りに染まった彼の紫色をした眼球を私の真っ黒な目ではね返したとき、彼は私の耳の横の髪を4本の指で梳いてから音を蝶々に変えて私のまつ毛に止まらせた
私の髪に移された温度が何故かたまらなく気持ち悪くて、いざ私以外の人間の存在を確かに認識した瞬間から気味が悪いと思い始めた
私以外にも熱を持つ人間が確かにいるというごく当たり前のことが私にとっては苦痛だった

心臓の音を聞きたかった
高校生の頃、合唱祭の衣装係6人で行った打ち上げのお好み焼き屋さんで、私は鉄板の上のキャベツをヘラで乱暴に砕きながら彼氏欲しいかもと言った。それで皆が驚いていたことを今でも覚えている
私が輪をかけて人間嫌いなことを理解していたあの人たちにとっては想定外の言葉だったそうな
なんで?とか、〜〜さんも普通にそういうこと思うんだね、とか、まるで私が冷血人間と思い込んでいたかのような言葉が各方面から返ってきた
私は心臓の音が聞きたいからと返した
出たよなんちゃらワールド、みたいに笑い飛ばしてくれるのが分かっていたから私は正直に答えた。私の予想は外れなかった
皆は少女マンガや恋愛ドラマみたいに誰かの胸に飛び込みたい的なことを私が回りくどい表現で言ったと捉えたようだったが違う。ただ誰かの心音を聞きたかっただけだった。生を打ち続けているものが私以外にも確かにいるってことを確認したかった
思い返すとなかなかに気持ち悪い女だが私はやっぱり周りの人たちに恵まれていて、甘えることができて、なにを言おうが許してもらえて、正直その位置づけをありがたく思ってた
心臓の音くらい聞かせてやるよと半袖になった男子がいたが安売りはしたくないと言った。意味がわからない。逆のセリフだ。
その後天井からぶら下がるように取り付けられた大画面テレビに映った郷ひろみをみてカッコいい、と大声で言って話を逸らした。他の女子も便乗してカッコいいカッコいいと連呼しクラスに必ず1人はいるような「大学全部落ちたら吉本NSC決定」みたいなやつが低クオリティのモノマネを始めたから心臓がどーたらという流れは消え去った。消え去るきっかけをぶっこんだのは私だ。わざとだ。私がちゃんと計算してることを皆は気付かないのだ。演じていることも気付かない、ずっとそうだった。低クオリティが売りであるあいつのネタをみて笑いながら、お好み焼きの生地から弾かれて鉄板の隅でしなびてしまったキャベツの欠片に桜えびを添えてヘラで押し潰した。一瞬だけ水分が蒸発する音がした


心音を確認する前に彼の心臓は止まった。だから私はまだ生きるということがどういうことなのかわかってはいない。髪に移ったぬるい温度とか香りだとか色の変わる目だとか、断片的なものは確認できたけど私はわかってない。一番大切なことが

ちがうちがうちがうそうじゃない
私はただ認めてほしかっただけ

昔の歌みたい



死んだ彼が多くの光を浴びている姿を見た。彼の心臓は私が勝手に止まったとみなしていただけで、実際は何事もなかったかのように絶え間無く循環機能を担い続けていたみたいだ


私はそれを認めたくなくて、思い切り走って髪を靡かせることだけに集中した。風が煽って冷えていく髪を掴んでも気分の悪さは消えなかった



今日髪を切った
あの熱は今ビニール袋のなかで