庇護雑記

フィクションだから。

初恋

 

 

彼のちぎれた腹から吹き出した血を受け止めた時、私は確かに彼の熱を感じました。私を優しく抱きかかえるかのように、頭のてっぺんから肩へ胸へとねっとりとした執着を浴びました。唇を割って染み入る赤い熱は、非常に甘くいつまでも味わっていられるように思えました。

車輪が動き、彼の身体の中にぴったりと収まっていた中身がボロボロと零れ落ちていきました。それは美しい彼の顔からは到底想像できないほど醜く不気味な塊でした。こんなに美しい人の中に、こんなにも生々しくおどろおどろしいものが入っていたことには驚きましたが、それらが彼を内側から支えていたものだと考えると、その塊すらも道端に凛と咲くタンポポや、町の小学生がまいにちお水をあげてやっと咲かせたチューリップのように、愛らしく気高いものに見えました。彼が隠し持っていた美しいこれらを守らなければ、そんな考えが瞬時に頭をよぎり、私は自分の服を伸ばして彼をかき集めました。彼のためなら、私はなんだって出来たのです。

目眩に襲われ吐き気をもよおしつつもなんとか彼の顔の前までたどり着くと、その顔は真っ赤に染まってはいたものの、表情をつくる筋肉は弛緩しきっており、何の苦しみも感じなかったかのように穏やかな表情を浮かべていました。愛してる、と何度も言ってくれた、だらんと下がった彼の舌を口の中にしまい上下の唇をしっかりと合わせました。そのあたりから、周りの音がより一層騒がしくなったような気がしますが、そこからの記憶は途絶えています。

 

 

最後に浴びた愛する彼のすべては、私にとって永遠に忘れられない感覚なのです。ほんの少しでも彼の存在を感じたくて、自らの腕を噛んだりもしますが、ただひたすらに鉄の味しかしません。あの時感じた甘味は、一体なんだったのでしょう。彼の断片が私の中にまだ残っていると信じて、私は腕を噛み続けているのです。すべては、彼をまた感じるためです。