庇護雑記

嘘たち

ひかり

 

10年前のきみの禍根は今でも美しくて、長い眠りから醒めた直後でもその圧倒的な煌めきが失われていないことに絶望した。

2018年が刻まれ始めたこの世界で、きみが焼きつけて煤だらけになった過去ですらも私を捕まえて離してくれないことに嫌気が差したからだった。どうしようもないきみが見つけ出した私も、どうしようもないのだ。

 

きみは本当にどうしようもなくて、救いようもなかった。だけど私の頭の上へと投げてくるきみの数秒前の思考はいつも私を驚かせたし楽しませてしまった。チカチカと色を変えるきみの目は憎たらしいほどに無邪気で、その指が弾いて散らした火花はなによりも綺麗だったから、私はもうなんだってよかった。

繁華街を歩きながら、大きな麻の香りに気がついてもなにも言わなかった。ふつうのひとはね、これがなんの香りかだなんてわからないんだよ。だから得意げな顔をするのはこの一瞬だけだからね。酩酊した学生を笑いながらネオンを駆けていく姿を後ろから眺めて、なんだか香港の映画みたいだと思った。小指に絡んだ細く白い煙があればどこまででも走っていけるような気がした。

 

君が両手では抱えきれずに、今にも破裂しそうだった風船がきみを飲み込んで真っ黒に染めてしまっても、私は白に塗り潰して煙をきつく結んでしまう。きみが闇から逃れようと足掻いて、雨に濡れ溺れて、手のひらを藁で切りながら迷子になったとしても、私は小指から狼煙を上げてしまうだろう。

新しい夜明けが追いついてくれるまで。