溶けた電球
暗がりを売りにする洒落たレストランで、大量に吊り下がっている電球のひとつひとつを見ながら話を少しずつ聞き流していた
右から左にただ抜けていくわけではない。
右から左に香りながら抜けていくのです
この二つの違いがわからない人が多すぎるから、わたしは微妙にほほえみながら聞き流しているわけです
声の香りが分かりますか、私にはわかるんです
だからこそ嫌なことも辛いこともたくさんあった、私にしかわからないあれやこれやが。
熱にやられて電球がぐにゃりと曲がって、歪んだ光がたれてくるのを横目に食べるエビとオリーブオイルの料理は格別だったように記憶している
目の先に漂うその香りは、嫌いではありませんでした
僕は君のもの
君は僕のもの じゃない
僕は君のもの 君のもの、としての僕
君だけの僕がここにいる
僕だけの君はどこにもいない
君は誰のもの
君は誰のものでもない
僕は誰のもの
僕は
今はなにもしたくない
好きなことも出来なくなってる
好きなものがどうでもよくなってしまった
特にこれといった理由はないけど
時間が止まってくれないから、私をこんな目に遭わせる
昔から手に入れなければ気が済まなかった
手に入れられないものなんてなかった
手に入らないもの、なんてものはなかったのに
未来だけがいつまでもくたばってくれない
私の言うことを聞かずにひらりと身をかわして
私の手の中で蹲ってくれないから
だから私はあの溶けたドロドロの光を無理やり掴んで、高温で掌を焼きながら微笑んでる